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塾に迷う理由

学校だけでは不安、されど塾に行かせるには……と迷っている親はたくさんいることでしょう。迷う理由は、「・子どもを塾にやるには、まだ幼い・過度なマイペース・型にはめられることを必要以上に嫌う」など、さまざまでしょう。こんな例がありました。Aくんとしておきましょうか。わたしがこの子に会ったのは、彼が幼稚園の年中さんのときでした。当時、お兄さんが小学校の五年生でした。お兄さんはかなり落ち着きのある子で、処理能力も高く、聞く力をもっている非常に優秀な子どもでした。ところが、弟はとてつもなく落ち着きのない子で、わたしの顔をちょっとだけ見ると、あとはその周辺の探検をはじめたのです。そして、「これは何?」「これは?」「これは?」と全身を興味の塊にして動き回りました。お母さんはその様子を見て、「先生、兄と全然タイプがちがうから、びっくりなさったでしょ」と言って、赤面したり、青くなったりの連続でした。ところが、その後お母さんと弟さんの入塾について話をしている間に、彼が面談室からいなくなってしまったのです。あわてて部屋を飛び出し、教室のあちらこちらを探しましたが見あたりません。と、そのとき、書籍など必要書類を収納してあった押入れの中で音がして、彼か顔を出したのです。手には小学校二年生の国語と書かれた本を手にしていました。そして第一声が、「これ、なんて書いてあるの?」でした。みんながどれほど心配して自分を探していたかなんてつゆ知らずという顔をして言ったのです。お母さんは思わずその子をどなりました。「何をやっているの!いい加減にしなさい。先生やみなさんにあやまりなさい」。お母さんは今にも泣き出しそうな顔でした。しかし、本人はなぜ怒られるのかわかりません。ボロッと大粒の涙を流したかと思うと、書庫の扉をパタンと閉めてしまったのです。そして、出てこなくなりました。お母さんが必死で叫んでも、彼はガンとして出てきません。わかしは「放っておきましょう」と言い、お母さんが嫌がるのを説得してお兄さんと帰っていただきました。それから、一時間くらいしたときだったでしょうか。彼は職員室のわたしのところへやってきました。その顔には「なんで怒られるの?」「お母さんは?」と不安がいっぱいつまっていました。椅子から立ち上がり、彼の前に行ったわたしは、ひざを落として彼とおなじ高さに視線を落として、「どうして怒られたのかわかんないんだ。悪いことしてないのだもんね」と言ってニコリと笑いかけました。次の瞬間、彼の顔はまさに烈火のごとく真っ赤になり、そして大きく引きつったかと思うと、外の通りにまで聞こえるような声を出して泣き出したのです。そして、わたしにしがみつきました。震える彼の全身が、懸命にいろんなものをわたしに訴えかけています。

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