一日おきのシャンプー、ドライヤーを使わない自然乾燥、朝晩のブラッシングという手入れの行き届いた髪は、枝毛一本あるわけでなく、頭の動きに合わせて光の輪がゆれる。それを「天使の輪」と呼ぶんだと教えてくれたのは娘だった。「私、天使の輪をなくしたくない」と、ぜったいにショートヘアになろうとしない彼女に、昔の私の奮闘を語ったら、きっと一笑にふされてしまうにちがいない。「いってきまーす!」今日も大きなカバンを下げて学校へ出かけて行く娘の長い髪がゆれる。その後ろ姿を見て、遠い遠い昔の記憶が、夜の闇の中のきんもくせいの香のように、ふんわりと私を包み始める。どこかで見た姿、確かにどこかで……そう、あの時!赤ん坊を産み終えて、分娩台から移された担架の上、霧のかかった頭の中で見たあの少女の後ろ姿!手に入れた物と同じくらいたくさんの物を失った年月、これからの日々も同じように繰り返されていくのだろう。物に執着せずに、おおらかに、やさしく生きていきたいと思うけれど、私の目と耳と鼻と皮膚と心でとらえた本当にだいじな物だけは、いつまでも失わずに、時折ひっぱり出しては、ほこりをとってみがいてあげたい。
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